人は判断を間違える生き物 あなたのためのアイデア発想41
こんにちは。ホンブチョウです。この連載コラムでは私が今まで学んできたアイデア発想のやり方を毎回ひとつづつ紹介していくことで、あなたに合ったやり方を見つけてもらいたいと考えています。
第四十一回は、
バイアス起点発想法
私たちは毎日、数えきれないほどの選択をしています。何を買うか、どこへ行くか、どの情報を信じるか。その多くを「自分でよく考えて決めている」と思っていますが、実はその判断は、思っている以上に簡単に影響を受けています。
たとえば、
「限定」と書かれていると気になる。最初に見た価格が、なぜか基準になってしまう。
得をする話より、損をしない話のほうが心に残る。
こうした反応は、意志が弱いからではありません。人間の脳にあらかじめ備わっている“考え方のクセ=バイアス”によるものです。
大事な時にもバイアスは影響します。有名なお話で、重い病気にかかっていて主治医から「この手術を受けた100人の患者のうち、90人が5年後も生きています」と言われると、安心して手術を受けるかもしれませんが、「この手術を受けた100人の患者のうち10人が5年後に亡くなっています」と言われたらとても不安になって手術を受けないかもしれません。内容は全く同じあるにも関わらず、チャンスにもリスクにも見えてしまいます。
この「クセ」を体系的に研究してきたのが行動経済学です。
今回は行動経済学をアイディア発想の起点として考えてみましょう。
行動経済学は「人を操る学問」なのか?
先ほどの手術の話のように、行動経済学と聞くと、「人をコントロールするための学問では?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、本質はまったく違います。
行動経済学は、人は必ずしも合理的に判断しないという事実を、否定せずに受け入れる学問です。
忙しい日常の中で、すべてを論理的に比較し、最適解を選ぶことはできません。だから人は、経験や直感、周囲の空気を頼りに判断します。これは欠点ではなく、人間が生き延びるために身につけてきた自然な仕組みです。
この前提を受け入れると、
アイディアの問いは次のように変わります。
- ❌「どうすれば正しい判断をしてもらえるか」
- ⭕「人がついそう判断してしまうポイントはどこか」
この視点が、バイアス起点発想法のキモです。人間の認知バイアスを起点にしてアイディアを考える方法とも言えます。
一般的な発想は、
「課題があって、それをどう解決するか」を考えますが、バイアス起点発想法では、
次の順番で考えます。
- 人が無意識にしてしまう思考のクセ(バイアス)を選ぶ
- そのクセが強く働く場面を想像する
- そこからアイディアに転換する
つまり、人を変えようとしないのが特徴です。変えるのは人ではなく、環境や見せ方です。
なぜ「バイアス」から考えるとアイディアが出やすいのかな?
理由はとてもシンプルです。
バイアスとは、すでに人の中に存在している反応のスイッチだからです。すでに起きている反応を、「どう表に出すか」を考えるだけでよいのです。
ゼロから川を掘るのではなく、すでに流れている水の向きを少し変える。
それが、バイアス起点発想法の考え方です。
では、やってみましょう。例として3つのバイアスを紹介します。
① 損失回避バイアス
人は「得をする」より「損をしない」ことに強く反応する。
多くの研究で示されているように、人は同じ価値であれば、「得られる喜び」より「失う痛み」を強く感じます。
賭けをしたとして、コインの表が出るとX円もらい、裏が出ると1,000円払う。Xがいくらなら賭けに応じる?とした時、多くの人は2,000円前後と答えるそうです。それは2,000円手に入れる見込みと、1,000円を失う見込みが釣り合うということを意味します。
この価値を「得」ではなく「失うもの」として表現するとどうなるでしょうか?
活用例
- 学ぶメリット → 学ばないことで失われる選択肢
- 行動の価値 → 行動しないことで起きる不便さ
- 参加の意味 → 参加しないことで得られない経験
例えば「学び」を“成長”ではなく“劣化防止”として捉えると、表現のアイデアはこう変わります。
「学ぶことでスキルアップできます」
→「変わらないことが、相対的な後退になる時代です」
例えば「無料」を“得”ではなく“失う権利”として再定義すると、
「無料で試せます」
→「試さないと、自分に合うかどうかを判断する機会を失いますよ」
使ってはいけない活用例(NG)としては
- 不安を過剰に煽り、冷静な判断を奪う
- 実際には起こらない損失を誇張する
- 「やらないと大変なことになる」と脅すような表現はダメです。
損失回避は強力ですが、恐怖を使いすぎると信頼を失います。
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② アンカリング効果
最初に見た情報が、判断の基準になる。
最初に提示された数字や印象が、その後の判断の“物差し”になる現象です。例えば、「通常価格9,000円→セール価格5,000円」と表示すると、9,000円に引っ張られて5,000円が安く感じられるみたいなことです。
活用例
- 理想像や完成形を先に示す
- 判断軸そのものを最初に説明する
- 比較の基準を明示する
例えばペット事業のアイデアを考えるとすると、
→ 悪い習慣形成→矯正の損失回避。ペットと生きるというのは最初のしつけなどの修正コスト(お金も時間も環境も)がホントに高いので、はじめにかわいいだけではなく、やんちゃで困ったこともしてしまうのを回避することを最初に提示することはとても大事なので、
「最初に最良のしつけ基準を設計するサービス」などが出てきます。
使ってはいけない活用例(NG)
- 根拠のない数字を最初に出す
- 実態とかけ離れた基準を刷り込む
- 後から条件を大きく変える
基準を示すことと、誤解させることは違います。
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③ 現状維持バイアス
人は「変えない」選択をしがち。
人は選択肢があっても、今の状態を維持するほうを無意識に選びやすい傾向があります。座席表などないのに、同じ席に座る傾向があるのもこのバイアスです。
では変えないことのほうが不自然になる状態をつくれないでしょうか?
活用例
- 続けるほうが楽な仕組みをつくる
- 変化が自然に組み込まれた流れを設計する
例えば、お菓子の新製品アイデアを考えるとすると、変化を意思決定の対象にせずに “現状維持扱いで栄養やカロリーを改善”できる
「いつものお菓子が今日も続くパック」 などはどうでしょう?「一週間パック」や「ルーティンパック」などにして“いつもの”を積極的に奪いに行くアイデアなどが出てきますね。
使ってはいけない活用例(NG)
- 勝手に設定を変更する
- 元に戻しにくくする
- 選択肢を意図的に隠す
「気づかないうちに変わっていた」はNGです。
例を出してきたように、大切なのは「相手のためになっているか」という最後の確認が、とても重要です。
他にもいろいろバイアスは存在します。「希少性バイアス」や「社会的証明バイアス」「選択的過多バイアス」無意識な「アンコンシャス・バイアス」など、どのバイアスを起点にアイデアを広げるかで、アウトプットが変わってくるのがバイアス起点発想法の面白さです。
ダニエル・カーネマンさん、ダン・アリエリーさん、リチャード・セイラーさん、相良奈美香さんなど、行動経済学の書籍はたくさん出ているので読んでみると興味深いと思いますよ。
アイデアは「人間理解の深さ」から生まれます。
優れたアイデアは、奇抜な発想から生まれるわけではありません。
人はどこで迷い、どこで楽をしたがるのかその理解の深さが、アイデアの質を決めるとも言えます。
行動経済学、そしてバイアス起点発想法は、人を操るための技術ではありません。「最適な選択」は人には難しすぎるのかも知れないと理解した上で、少しでも選びやすくなるように。後悔しにくくなるように。環境を整えるための知恵です。
人は、間違えます。しかし、その間違え方には驚くほどの規則性があります。
その規則性に気づいたとき、アイディアは「ひねり出すもの」から「見つけるもの」へと変わります。バイアスは弱点ではありません。発想の入口と言えるかもしれませんね。
ではまた次回。今回はここまで。
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