あるはずのものが無いと人は考える あなたのためのアイデア発想39
こんにちは。ホンブチョウです。この連載コラムでは私が今まで学んできたアイデア発想のやり方を毎回ひとつづつ紹介していくことで、あなたに合ったやり方を見つけてもらいたいと考えています。
第三十九回は、
不在要素発想法
そこにあるはずのものが無くなると、途端に機能不全に陥ることはよくあります。プロジェクトのキーマンが病気でいなくなる。スマートフォンを失くしてしまう。お料理中に塩がないことに気づく。
いろんな場面で“当然あるはずの何か”が無くなると、すぐに諦めてしまう人もいますが、じゃあどうやって補おうか?とか、全く別のやり方を再定義する人もいると思います。
そのように「不在なことをあえて考えてみる」ことはアイデアを広げるためには大事な視点かも知れません。
まずはやってみましょう。
1、あるシステムや体験から“当然あるはずの要素”を一つ抜き取ります。
例えば、「レストランから“メニュー”をなくす」とか、「お菓子から“味”をなくす」とか、「学校から“先生”をなくす」「旅行プランから“宿”をなくす」なども良いですね。
2、その欠けている状態で機能をどう再設計できるか考えます。
例えば「学校から“先生”をなくす」だと思いつくのは
→ 先生がいないので自分たちだけで学ぶ必要がある。
→ 学生同士で知識を磨き・交換、共有する仕組みが欲しい。
→ そのためには指示されるのではなく、自走することが大事。
3、そのアイデアを実現するためのネーミングを考えます。
→自走型学習共同体「ぼくたち」
3のネーミングをタイトルにして、2のように考え方を1枚にまとめておくと、新しいアイデアがひとつにまとまるので、ストックもしやすくなります。
「欠けているところ」から発想すると、創造力は“補う”方向ではなく“再定義する”方向へ進むのが理解できると思います。
他にも考えてみましょう。
「レストランから“メニュー”をなくす」
→ メニューがないので、お客様は選べない
→ ゆえに会話しながら自分の食べたいものを伝えるしかない
→ シェフは会話から即興で料理を考え、提案する
→ メニューのない即興レストラン「エチュード」
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「百貨店から“店員”をなくす」
→ 店員がいないので接客がなくなる
→ 商品は自分で選ばないといけなくなる
→ ただ現在だと自分の好みや行動パターンなどはネット上のデジタルツインやAIの方が本人よりわかっているかも知れない
→ AI+空間デザインによる行動予測型店舗「プライベートナビ」
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再設計の考え方次第でアイデアそのものや、最後のネーミングが変わるという例で言えば
「百貨店から“店員”をなくす」
→ 店員がいないので接客がなくなる
→ 商品は自分で選ばないといけなくなる
→ 結果、自立的・探究的な購買行動を生み出すことにつながる
→ まるで宝探しのように時間をかけて探していく店舗「トレジャーマーケット」
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考え方ひとつで、いくつも分岐点が広がり、アイデアも広がっていきます。
もう少し考えてみましょう。
「映画から“映像”をなくす」
→ 映像はなくても音はある
→ 音と想像力で物語を脳内で再生する必要がある
→ 触覚(さわる)や嗅覚(においをかぐ)、味覚(あじわう)は活用できる
→ 想像力で物語を構築する映画「イマジン」
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「香水から“香り”をなくす」
→ 香水なのに“香りがない”
→ 代わりに“空気感”や“温度”を変えるなどは可能
→ 肌や体温に触れたとき、本人にしか感じられない“透明な変化”を演出
→ 自己との対話を促す香らない香水「Silentフレグランス」
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「欠如は創造の余白」と言えるのかも知れません。
あるべきものがないことを恐れずに、考え続けることで想像もしていなかったようなアイデアにたどり着く可能性があります。ないことを考えることによって、気づく力や想像力を養えるということだと思います。
またネーミングを考えるのはとても大事です。その一言でイメージできるか否か?また興味を引けるか否か?ひいてはアイデアそのものの成否にも関わってきます。そういうところは生成AIが得意かも知れませんね。
大学院の最初の授業で新規事業アイデアを100個出すという宿題があり四苦八苦した覚えがありますが、このやり方をもっと早く知っていれば、そんなに苦労しなかったでしょうね。
そして出てきたアイデアはぜひストックしておいてください。
後々見直した時におそらく自分も忘れていて、こんなことを自分は考えていたのか!と驚いたり、その時に必要なアイデアに転化できたりすることがありますので。アイデアのタイムカプセルのようなものですね。
ではまた次回。今回はここまで。
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