ストーリーで共感や感情移入は起こる あなたのためのアイデア発想46
第四十六回は、
ストーリー思考発想法
いよいよサッカーW杯が始まりました。私も以前、南アフリカや、ドイツ、ブラジルでも現地観戦しましたが、リアル体験での記憶とは別に、サッカーの試合には退屈な90分もあれば、何年たっても語られる90分もあります。その違いは、なんでしょう?技術の高さ?すごいゴール?
それだけではない、人の心を動かす試合には、たいてい「ストーリー」があります。
たとえば、2022年の日本対スペイン戦で生まれた「三笘の1ミリ」。ボールが完全にはラインを割っていなかった、その紙一重が日本の運命を変えました。三笘薫選手自身も「1ミリかかっていればいいなと思いました」と語っています。また、2018年のベルギー戦は、あと一歩で届きそうだった夢が、わずかな時間で反転したことから「ロストフの14秒」として記憶されています。
人は、簡単にかなうものにはあまり心を動かされません。逆に、絶望的すぎるものにも乗っかれない。心が動くのは、「難しい。でも、もしかしたら届くかもしれない」というギリギリの距離にあるのだと思います。アイデア発想でも同じです。人を惹きつける企画には、必ず“達成したいこと”と“それを阻むもの”が同時に存在しています。
感動を生むストーリーを、どう発想のヒントに変えればいいのか。私は次の4つの手順が有効だと思っています。
では、やってみましょう。
まず一つ目は、「主人公の願い」を一行で言い切ることです。
アイデアを考えるとき、多くの人は機能や特徴から入ります。しかし人が知りたいのは、結局「誰が、何をかなえたいのか」です。たとえば「忙しい親が、子どもとちゃんと向き合う時間を取り戻したい」「新人社員が、自信を持って初提案を通したい」といった感じです。願いが明確になると、アイデアに体温が宿るというか、ストーリーの大まかな方向性が決まります。。
二つ目は、「それを阻む壁」を置くことです。
ストーリーは、願いだけでは動きません。障害があるから見たくなる。時間がない、予算がない、経験がない、周囲に理解されない。こうした壁があるほど、アイデアは輪郭を持ちます。発想の場面では、「なぜそれが実現しないのか」をあえて3つ書き出してみましょう。すると、単なる思いつきが、ドラマを持った企画に変わってきます。はたして主人公はその障害を乗り越えられるのか?乞うご期待と言ったところでしょうか。
三つ目は、「あと少しで届きそうな瞬間」を設計することです。
三笘の1ミリが象徴しているのは、まさにこの“紙一重”です。全部ムリではなく、もう少しで届く。その緊張感が、人を前のめりにします。商品企画アイデアなら、「完全な習慣化」ではなく「まず3日だけ続く仕組み」を考える。
教育サービスなら、「英語が話せるようになる」ではなく「次の会議で一言だけ自信を持って言える」にする。ゴールを“少し手前”に置くと、リアリティが生まれます。奇跡が起きて叶うようなストーリーもありますが、それではアイデアの達成も奇跡待ちになってしまい、現実的なアイデアになりません。
四つ目は、「結果」ではなく「変化」を描くことです。
人が感動するのは、成功そのものより、そこに至る内面の変化です。勝ったか負けたかだけではなく、挑む前と後で、その人がどう変わったのか。アイデアでも同じで、「便利です」「売れます」ではちょっと弱い。「この体験によって、その人の見え方がどう変わるのか?行動が目に見えて変わる。」まで描けると強くなります。
アイデアは「機能ではなく変化を考える」のだ、と考えると発想の質が一段上がります。
また、頭の中だけで考えにくい場合は「ストーリーボード」を作成しながら考えるのも良いと思います。
以前紹介した、「コアクエスチョンストーリー発想法」も参考にしてみてください。
では、具体例を考えてみましょう。
たとえば、「街の書店を活性化するアイデア」を考える。
ありがちな案は「イベントを増やす」「SNSを頑張る」で終わります。でもストーリーの型で考えれば違ってきます。
主人公は「忙しくて本を読めなくなった大人」。願いは「もう一度、本と出会う感覚を取り戻したい」。障壁は「時間がない」「何を選べばいいかわからない」「スマホに負ける」。そこで企画を、
「3分で“今日の1冊”に出会える棚」として設計する。さらに、その棚に選書した理由を店主の短い言葉で添える。
するとこれは、単なる陳列の改善ではなく、
“本を読む自分を取り戻す”ストーリーになりませんか。
あるいは新商品の発想でも同じです。たとえば健康アプリを考えるなら、
「運動記録アプリ」では弱いし、たくさんある。主人公を「健康診断の結果が気になり始めた40代」に置き、願いを「まだ遅くないと思いたい」にする。障壁は「ジムは続かない」「時間がない」「頑張る自分を演出するのは疲れる」。そこで、“努力の記録”ではなく
“昨日より3分だけ体を動かした証拠”が残る設計にする。ウルトラマンのカラータイマーのように「その3分間だけは集中して戦えるような演出」もアリかもしれません。
人は、完璧な未来より、少し前に進めた実感に励まされるからです。
アイデアに行き詰まったときは、「これで何ができるか」と考えるより、
「誰の、どんな切実さを、どんな壁の向こうでかなえるのか」と問うてみることです。
心を動かすアイデアには、たいてい主人公がいて、障害があって、紙一重の希望があり、最後に小さくても確かな変化があります。
ドラマティックなサッカーの試合とは、単に点がたくさん入る試合ではありません。前回大会のアルゼンチンの決勝のように、かなわないかもしれない願いに、人が祈りを乗せられる試合です。
アイデアもまた同じです。人が応援したくなるアイデアをつくること。そこから先に、共感も、拡散も、記憶に残る強さも生まれてくるのだと思います。
ではまた次回。今回はここまで。
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