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売り場で活躍する企業のキャラクターたち

2024.07.26

売り場で活躍する企業のキャラクターたち

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レポート:POP研究家 向坂文宏(桜美林大学准教授)


リテールメディアやAIを活用した店頭DX施策の進化など、最近も店頭についての新しい話題が尽きません。売り場を視察する際も、何か新しい試みが登場していないかという目で観察をしています。最近はスマートカートなども増え、一昔前に想像されていた未来の売り場が、あっという間に実現化していく様子が見られます。

一方で、実演販売や体験型POP広告の活用など、リアルな接点である店頭の特徴を生かしたアナログな手法も盛んに行われていることにも気づきます。その中で特に気になっているのが、メーカーもしくは商品のオリジナルキャラクターたちの売り場での露出です。目立つというアテンション効果だけでなく、ブランディングにも役立っており、今回はそんな店頭で活躍するキャラクターたちに焦点を当ててみたいと思います。

 

今も活躍する老舗の商品キャラクターたち

(写真①:メーカーの老舗キャラたち/左上から上段右へ、象印マホービン「ぞうさん」、タイガー魔法瓶「ティグ&ティーラ」、佐藤製薬「サトちゃん」、ダイキン工業「ぴちょんくん」/左下から下段右へ、コーワ「ケロちゃん」「コロちゃん」、JVCケンウッド「ニッパー」、不二家「ペコちゃん」、日清食品「ひよこちゃん」)

 

まず店頭で目につくのが見覚えのあるキャラクターたち。店頭に限らず、TVCMやキャンペーンビジュアルなどで昔から見かけるキャラクターたちです。中でも特に歴史のあるキャラクターがJVCケンウッドの「ニッパー」です。今から135年前の1889年に描かれた、蓄音機をのぞき込む犬の絵画がモデルとなっています。また、不二家の「ペコちゃん」は1950年生まれ、佐藤製薬の「サトちゃん」は1959年生まれで、今では企業の顔にもなっています。こうしたキャラクターたちの露出が改めて店頭で増えてきているのは、競争の激しい商品カテゴリーの中で、ブランド資産を活用した差別化を行う必要性が出てきたからではないでしょうか。

例えばオーディオカテゴリーは非常に多くのメーカーから製品が登場しており、商品の差別化が難しくなっています。JVCケンウッドは「ニッパー」を登場させることで、老舗メーカーとしてのブランド力を店頭でも強く訴求できていました。昨年、創立100周年を迎えたタイガー魔法瓶も、売場へ「ティグ&ティーラ」の人形を置くことで100年の伝統を印象付ける展示を行っています。長く愛され続けているキャラクターたちは、その存在そのものが大きなブランド資産であり、売り場づくりの強い武器になっていました。

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子供たちに人気のお菓子売り場

(写真②:お菓子売り場のエンド棚に作られたキャラクター人形/左から、コアラのマーチ「コアラのマーチくん」、プチチョコチップ「プチ」、カプリコ「カプすけ」、ハッピーターン「ターン王子」)

またキャラクターたちは、愛くるしさからファミリー層を売り場へ引き付けてくれます。特にお菓子売り場では、子供たちが思わず駆け寄ってしまうような施策が行われています。写真②は大手ショッピングモール内のスーパーのお菓子売り場ですが、他の店舗では見かけない大きなキャラクター人形たちが売り場のエンドコーナーで待ち構えていて、まるで遊園地のようです。こんな売り場であれば、きっと子供たちもまた買い物に来たくなるに違いありません。

 

(写真③:お菓子売り場のその他の商品キャラクターたち)

お菓子売り場を眺めると、他にも色々なところにキャラクターたちの人形が展示されていることに気づきます。什器に取り付けられていたり、空きスペースへ展示されていたりと様々です。中にはHARIBOの「ゴールドベア」のように、キャラクターを什器そのものにしている事例も見かけます。競合商品が数多く陳列されているお菓子売り場では、見たことのあるキャラクターが目印となって売り場へ買い物客を引き付けるようです。

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食品売り場の商品キャラクターたち

(写真④:食品売り場の商品キャラクターたち)

買い物客がお菓子売り場へ行く前に立ち寄る食品売り場でも、多くのキャラクターを見かけるようになりました。

TVCMやWEB動画で歌って踊る愛くるしいキャラクターのゼスプリインターナショナルジャパン「キウイブラザーズ」は、今ではすっかり有名になり、ぬいぐるみやカットアウト、その他POP広告として売り場を盛り上げています。青果売り場には姿形の同じ商品が並んでいるため、キャラクターの存在が商品の認知に大きく役立っています。最近はメキシコ産アボカド生産者・輸出梱包業者協会の「アボーゴ」の可愛らしい人形も見られるようになりました。アボガドの売り場はキウイフルーツと比べると馴染が薄いものですが、キャラクターが登場することでグッと身近な食材に感じさせてくれます。

エスビー食品のスパイス売り場には、WEB動画「SBおはスパワイドシアター」で活躍したスパイスのキャラクターたちが並んでいました。この動画はレシピなどを紹介する全206話のコンテンツで2020年に最終回を迎えたのですが、かわいいキャラクターたちの魅力に溢れたものでした。そのキャラクターたちが売り場に復活し、スパイス売り場へ親近感を醸し出していました。こうした売り場づくりは、きっとファミリー層へ楽しい買い物の時間を提供してくれるでしょう。

 

キャラクターを活用することで、店頭での課題解決を強力に推進していた事例もありました。岩下食品の「イワシカちゃん」です。

(写真⑤:岩下食品「イワシカちゃん」)

岩下食品と言えば、岩下の新生姜で有名なのですが、この商品には早急に解決しなくてはならない売り場での問題がありました。それは類似商品の存在です。多くの売り場に岩下の新生姜にそっくりな商品が安価で売られており、一見するだけではどちらが岩下食品の商品か分かりません。岩下食品では社長自らが先陣を切ってその対策をしていましたが、そんな中で登場したのが「イワシカちゃん」です。

2021年に登場した「イワシカちゃん」は、その姿が商品パッケージに掲載されると同時に、店頭ディスプレイや店頭イベントにも数多く登場し、キャラクターグッズ化もされました。新生姜を求める買い物客にとって身近な存在となり、その結果、類似商品との差別化に成功し、岩下の新生姜のブランドを強固にすることに成功しました。売り場でのキャラクターが、店頭ブランディングを行う際に有用であることを教えてくれた事例でした。

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売り場での商品の認知獲得

写真⑥:石澤研究所「毛穴撫子」、エンジニア「ウルスくん」)

キャラクターは、すでに店頭に強力な競合商品がある場合や、新規参入する際の認知促進などにも活躍しています。石澤研究所のヒット商品である「毛穴撫子」シリーズは毛穴ケアを特徴とした洗顔料ですが、POPや商品パッケージにキャラクターのイラストを象徴的に配置することで、競争の厳しい洗顔料売り場でインパクトのある陳列を行うことに成功していました。他社との差別化ポイントを明確にした商品開発も素晴らしいのですが、その特徴をキャラクターで表現することで認知を獲得するという発想も、この商品がヒットした一因かと思います。最近では立体のキャラクター人形を展示することで、さらに存在感のある陳列に成功していました。

また、エンジニアの「ウルスくん」も、キャラクターが商品の大ヒットに貢献した例です。エンジニアのネジザウルスシリーズは、ネジ頭の潰れてしまったネジなどをドライバーの代わりに掴んで回すことができるプライヤーという工具です。ビジネスショーで集客するために恐竜の小型ロボットにネジをくわえさせて置いてみたところ、多くのバイヤーの目に留まり商談に繋がったとのこと。これがキッカケで「ウルスくん」は誕生しました。「ウルスくん」を使った売り場づくりは、様々な工具が並ぶ中でもひと目でネジザウルスコーナーを視認させ、また他社には無い商品特徴を分かりやすく紹介していました。地味になりがちな工具売り場にキャラクターが登場することで華やかになり、店舗の売り場づくりにも貢献しています。

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続々登場する、商品キャラクターたち

(写真⑦:ヤクルト本社「ヤクルトマン」、おーいお茶「おーいお茶くん」、Fibee「ファイビーズ」)

近年も続々とキャラクターたちは誕生しています。ヤクルト本社の「ヤクルトマン」や、伊藤園の「おーいお茶くん」などは、商品自体が長く愛されているため、そのキャラクターも昔から存在しているような印象がありますが、登場したのはそれぞれ2017年、2018年と最近です。ロングセラー商品のテコ入れ策として、キャラクター活用の有用性に着目されたのではないでしょうか。今年3月に発売されたミツカンのFibee(ファイビー)は、発酵性食物繊維を手軽に楽しむ事ができる新しいブランドです。この商品のブランディングにも「Fibees(ファイビーズ)」というキャラクターが採用され、店頭やWEBを通したコミュニケーションに活用されています。

そして、最近のキャラクターたちはSNSも積極的に活用しています。「ヤクルトマン」のXのフォロワーは6.2万人、「おーいお茶くん」のフォロワー数はなんと48.9万人もいます。「ファイビーズ」のフォロワーも、まだ1万人弱ですが、順調にファンを増やしているようです。キャラクターたちは、こうした様々なコミュニケーション手法を繋げるアイコンとしても役立っています。

店頭での商品訴求や売り場づくりについて、キャラクターたちの活躍を色々とご紹介してきました。企業の商品企画を始めとしたマーケティング施策が優れていることが前提ではあるものの、リアル店舗でのキャラクター活用は有効なプロモーション手法の一つであることは間違いなさそうです。

キャラクターの表現方法も、ぬいぐるみや樹脂成型、ヴェルダー成型、紙、その他素材などの様々な加工技術が役立ちます。デジタルプロモーションが進化していく一方で、こうしたアナログな手法が賑やかになっていけば、売り場は益々楽しいものになるのではないでしょうか。そのような事を感じた今回のレポートでした。

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