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増えてきた、POPサイネージによるカウンセリング販売

2025.03.11

増えてきた、POPサイネージによるカウンセリング販売

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POP広告は昔から「販売員の代わりに買い物客へセールスをするもの」という考え方で企画されていました。その思いは今も変わらないかと思います。

しかし、伝えたい多くの商品特徴を全て訴求しようとすると、POP広告へ掲載する情報が多くなりすぎてしまい、分かりにくいPOP広告になってしまいます。印刷物主体のPOP広告では、どうしても情報を絞り込む必要があります。

30年近く前、POP広告専用のサイネージ商材が登場しました。タッチパネル式となっていたため、買い物客が望む情報を映すことが可能であり、一気に伝えられる情報量が増えました。また付加価値として、買い物客がどのボタンを押したのか履歴が残るため、買い物のニーズが分かるよう工夫されていました。それまでブラックボックスであった購買行動の履歴が検証できることは、当時としては画期的なアイデアでした。

POP広告の訴求内容に対して効果検証が可能となるので、次のプロモーション企画の精度が向上するだけでなく、店頭で得た情報が商品企画などマーケティング戦略に役立ちます。しかし、コスト高からあまり広がることはなく、しばらくは積極的な活用は見られませんでした。

近年、モニターの低価格化が進み、またスマホやタブレット端末といったタッチセンサーを搭載したディスプレイが身近になったことで、改めて店頭での活用が広がり始めています。店頭DXという時代の要請もあり、ファーストパーティデータの入手デバイスとして活用しやすいことと、販売員の代わりにカウンセリング販売が行える施策として、様々な売り場で見られるようになりました。もっとも店頭で見かけることのできる店頭DX施策とも言えるのではないでしょうか。

(写真①:POPサイネージ活用事例 気になったワインの特徴や、ワインに合う料理などを教えてくれるPOPサイネージ)
(写真②:POPサイネージ活用事例 縦長の画面デザインに合わせ、POPサイネージ自信も縦長にすることで、多くの情報を一覧できるPOPサイネージ)
(写真③:POPサイネージ活用事例 理美容家電の商品特徴を詳しく紹介するPOPサイネージ)

今回は、そんなタッチパネル式のPOPサイネージによるカウンセリング販売を行っている売り場が、
どんな商品を、どのように紹介しているか、その活用方法をレポートします。
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多種類の商品から最適なものを選ぶ

(写真④:漢方薬売り場のPOPサイネージ)

 

多くの商品の中から自分に合った最適な商品を選ぶのは、商品を調べる手間もかかり、とても面倒な作業かと思います。

目的の商品が、めったに使用しないようなものであればなおさらです。ドラッグストアの漢方薬売り場はまさにそんなコーナーです。

売り場に多くある商品パッケージには、漢方薬名と効用、数字が記載されています。一つ一つのパッケージは分かりやすいのですが、それが大量に陳列されると、何を選んでいいのか分かりません。そんな時に便利なのが、商品選びをガイドしてくれるPOPサイネージです。

自分の現在の体調や精神状態などを選択してタッチをしていくと、今の自分に最適な漢方薬を紹介してくれます。

あらかじめ求めている漢方薬が分かっていれば、検索性に優れた売り場なので目的の商品を探し出せるものの、自分の症状に合わせて選ぶのは至難の業です。そんな売り場では、POPサイネージによるカウンセリング販売はとても役立ちます。

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様々な趣味嗜好の中から選択肢を提示する

(写真⑤:ワイン、コーヒー売り場のPOPサイネージ)

ワインやコーヒーなどの嗜好性の高い商品の売り場も同様です。種類が多いために、なじみのない買い物客ほど、どの商品を選べば良いのか悩んでしまいます。

ワイン売り場のPOPサイネージでは、どんな買い物客でも自分の趣味嗜好に合った商品が選べるようナビゲーションをしていました。まずは「赤」「白」どちらのワインを探しているかの選択から始まり、次に「辛口」「甘口」と「軽やか」「濃厚でコクがある」のマトリクスの中から興味のあるエリアを選ぶと具体的な銘柄が紹介されます。銘柄を選択すると商品説明が表示され、自分に合ったワインかどうかを確認できます。

コーヒー売り場のPOPサイネージでは、「モーニングにトーストとコーヒー。トーストにのせるとしたら?」「ランチ後のデザート。4つから選ぶとしたら」などの質問が表示され、それぞれに回答をしていくとおススメのコーヒーの「焙煎度」「酸味」「アロマ」「コク」のパラメーターが表示されます。このパラメーターは、売り場のコーヒーのPOPにも表示されており、自分に合った商品を選びやすくなっています。

どちらも、自分自身で自分の好みなどが分からない場合などに、色々な質問を投げかけてくれることで求めている商品を教えてくれます。

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代理購買商品の選び方を提示する

(写真⑥:代理購買商品の商品選びの方法を伝える)

 

買い物客が自分で使用するわけではない商品を選ぶときなども、何を基準に選べば良いのか悩んでしまうのではないでしょうか。

代理購買という買い物になりますが、例えば赤ちゃん用品や介護用品などは、世話をする人が相手のことを想像しながら買い物をすることになります。どの商品を選ぶことが正解なのか、分かりにくいこともあるかと思いますが、そんな時にカウンセリング機能が什器に搭載されていると大変助かると思います。

赤ちゃんの粉ミルク売り場では、対象の赤ちゃんの年齢、利用シーンから商品を選べるような情報をPOPサイネージにて展開していました。大人用のオムツ売り場では、いくつかの質問を経た上で、もっともおススメの商品を表示してくれました。

どちらも簡単な質問に回答をすることで商品紹介をしてくれるのですが、購入経験の少ない買い物客にとっては、とてもありがたい情報になるかと思います。

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商品を選んだ後に、体験まで誘引する

(写真⑦:選んだ商品の香りを試せる体験什器)

 

また、おススメの商品の商品体験まで誘導してくれる除菌消臭剤のPOPサイネージもありました。数多くの商品から最もおススメの商品を教えてくれることまでは他のPOPサイネージのカウンセリングと同じです。

この事例のユニークな点は、商品を選択した後で、その商品の実際の香りが吹き出してきて、選択した商品の香りを確認できるようになっていることです。

画面で選ぶだけでなく、商品を確認できるので、より安心して購入することができます。まるで、人間の販売員が買い物客へデモ販売を行っているかのような商品訴求をしています。

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めったに購入しない商品の選び方を提示する

(写真⑧:自分に合った包丁を選べるPOPサイネージ)

 

以前よりもPOPサイネージを導入しやすくなったことで、様々な売り場でカウンセリング販売を行うPOPサイネージを見かけることができるようになりました。

写真⑧は包丁売り場の物ですが、包丁の選び方をPOPサイネージが教えてくれます。まずは長期間の使用を考えているのかどうかの質問から始まり、使い方などの簡単な質問を経て「最適な一本」を教えてくれます。選ばれた商品は什器に陳列されているので、すぐに手に取って確認もできます。

「自分に最適な一本」を手に取ると、ずっしりと重みを感じます。納得して選んだ商品には、愛着もひときわ大きくなりそうです。

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インバウンド対応の施策として

(写真⑨:訪日客のために、最適なSIMカードを多国語で説明)

 

増加する訪日客への接客をスムーズに行う事は、販売員の課題の一つかと思います。語学の堪能な販売員がいれば話は早そうですが、限られた人材であることと、そもそも販売員数も不足しがちです。そんな時、訪日客への接客が行えるPOPサイネージは便利な施策です。

写真⑨は訪日客向けのSIMカード売り場のものです。店舗の入り口付近に設置されているので、簡単に見つけることができます。

POPサイネージでは携帯電話の利用方法を多言語で質問し、すぐに最適なカードを教えてくれます。海外の買い物客にとって、外国の店舗での買い物は分からないことだらけでしょう。そんな訪日客へのホスピタリティ向上にもPOPサイネージは役立っています。

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その他にも、様々な売り場で活躍するPOPサイネージによるカウンセリング販売

(写真⑩:販売員に聞きにくい避妊具についてもPOPサイネージで対応)

 

避妊具売り場でもPOPサイネージが活用されていました。小型ではあるものの多言語対応となっており、訪日客の利用も考えた施策となっています。

販売員の接客を受けづらい商品であったり、選び方がよく分からない商品などは、POPサイネージによるカウンセリング販売は非常に便利です。

そして、あまり目立ったプロモーション施策を行わない避妊具売り場などで活用されている事例をみると、POPサイネージが本当に使いやすい手法になってきたことを実感します。他にもこうしたカウンセリング販売が有効な売り場は多そうです。

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増える、手元のスマホを活用したカウンセリング販売

(写真⑪:QRコードから商品選びのWEBサイトへアクセス)

 

POPサイネージによるカウンセリング販売の事例をご紹介してきましたが、スマホを活用したものも増えています。

例えばシャワーヘッド売り場では、どのシャワーヘッドを選べば良いかをチャットボットが説明してくれるサイトを用意していました。シャワーヘッド売り場には、多種多様の商品が陳列されています。実際にシャワーヘッドから水が噴き出してくれると商品特徴も分かりやすいのですが、そのような売り場はまれです。そこで、スマホからチャットボットにアクセスし質問をすることで、買い物客の求めている商品を紹介してくれるようにしていました。

また、ライトフレグランスコーナーでは、商品選びのための診断コンテンツを用意、売り場か気軽にアクセスできるようにしていました。

どちらも売り場へはQRコードを用意するだけで展開が可能であり、コストパフォーマンスを考えるとPOPサイネージを設置するよりもかなり手軽です。ただし、毎回スマホを取り出してカメラを起動し、QRコードを読み込むのはそれなりに手間です。

買い物客は、売り場では買い物に関係のないわずかな手間も嫌がる傾向があります。POPサイネージであれば、手を伸ばせば気軽に触れられます。

コンテンツをしっかりと生かすのであれば、POPサイネージを採用するという選択肢はアリかと思います。

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さいごに

今回紹介したPOPサイネージによるカウンセリング販売を行っている売り場は、丁寧な接客が求められている売り場が多いかと思います。

常に専門の販売員が待機して接客ができることが理想ですが、社会的に人材不足が言われている中、そう簡単にはいきません。POP広告は今こそ活躍の場が増えていくと考えていますが、今回ご紹介したPOPサイネージによるカウンセリング販売は、まさに「販売員の代わりに買い物客へセールスをする」施策かと思います。

近い将来にはAIがPOPサイネージの代わりに接客をしてくれるかもしれませんが、売り場でカウンセリングを行う、という考え方は、今後も店頭プロモーション企画の切り口の一つとして、しっかり考える必要があると考えています。

 

文:POP研究家 向坂文宏(桜美林大学准教授)

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