お店の『売り方のキュレーション』から見る、魅力的な商品訴求のヒント
店頭プロモーションに関わる人にとって、商品をどのように紹介すれば買い物客に魅力を伝えられるのかは、常に悩みの種だと思います。特にメーカーの担当者は、多くの競合商品が並ぶ中で、自社商品に手を伸ばしてもらうために、日々試行錯誤を重ねているのではないでしょうか。
こうした売り方の悩みですが、常に買い物客と接している店舗の販売員が手がける売り場づくりから、新しいヒントを見つけられることがあります。販売員とメーカー担当者では、プロモーションの目的が「お店やカテゴリー全体の売り上げを増やすこと」と「自社商品の売り上げを増やすこと」とで少し異なりますが、売り上げを増やすという点では共通しています。今回は、そんな販売員たちが「キュレーション(情報を独自の視点で編集し、新しい価値を付加すること)」した売り場づくりから、商品紹介のヒントを探ってみたいと思います。
(写真①:商品の実演販売をする家電量販店の販売員。彼らの商品紹介の方法には参考になる事例も多い)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
市場環境に合わせた、化粧品売り場の作り方
(写真②:コロナ禍でのマスクメイクを特集した売り場)
今ではもう過去のものになりつつあるコロナ禍の「新しい生活様式」での売り方提案。コロナ禍で最も影響を受けた商品カテゴリーの一つが化粧品売り場でした。
外出が激減しメイクをする機会が少なくなったため、メイク商品の需要も大きく減少をしました。やがて外出規制が緩和され、街中に人が戻り始めた時に作られた売り場が「マスクメイク」コーナーです。マスクをして顔が隠れることを前提としたメイク方法「ベースメイク」「アイメイク」「メイクキープ」などを提案、それぞれに適した商品を紹介していました。
社会情勢や市場動向が大きく変化した際には、その環境に適応した新たな提案を迅速に行うことが、買い物客にとって有益なプロモーションとなり、新しい需要を生み出します。このスピード感には、色々と参考にすべき点がありそうです。
(写真③:「LDK the Beauty」とタイアップしたクレンジングオイル売り場)
コロナ禍が明けた後も、この売り場では、需要を創造するための提案が続けられていました。
写真③は、売り場と雑誌「LDK the Beauty」とのタイアップ展示です。「LDK the Beauty」は、商品を様々な視点からテストし、忖度のない評価をユーザーに届ける雑誌です。この雑誌と連携して商品を訴求することで、メーカーや店舗が発信する情報だけでなく、ユーザーが本当に求めている情報を提供する形が実現され、新たな需要の創出につながっています。
従来の売り方にとらわれず、ユーザーや買い物客が求めるものを常に考えることで、より効果的な売り方のヒントを見つけることができる好例と言えるでしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新たな選択肢を提示する家電量販店の売り場
(写真④:イヤホンの選び方提案)
コロナ禍で需要が増えた商品として、ワイヤレスイヤホンがあります。
従来の、外出先で音楽を気軽に聞くという役割だけでなく、テレワークで使用するために購入する人も増えました。また、「ながら作業」の需要も巣ごもり需要の中で増加したように思います。例えば、自宅での仕事や運動、家事に加え、コロナ禍で広まったDIYや家庭菜園などの趣味を楽しむ際にも、ワイヤレスイヤホンは圧倒的に便利です。
こうした需要の拡大に伴い、初めてワイヤレスイヤホンを購入する買い物客も増えたことでしょう。しかし、従来の売り方では、音楽を聴くための用途を前提とした商品紹介が一般的でした。そこで、ある店舗では、新しい選び方の提案を行っていました。その内容は、「ロングバッテリー」「テレワーク」「防水・防滴」「ノイズキャンセリング」「カラフル」「骨伝導」「1万円以下」といった切り口で商品を紹介するというものです。
音楽を聴くことを基本としつつ、その他のシチュエーションや使い方、予算に応じた選択肢を提示しています。こうした提案は、売り場に訪れる買い物客の声をもとに選び方を厳選しているのでしょう。従来の商品訴求では、バッテリー容量、デザイン性、価格などの異なる特徴を並列に扱うことは少なかったように思います。このような意外性のある選択肢の組み合わせは、買い物シーンを熟知した販売員ならではの発見と言えるのではないでしょうか。
(写真⑤:新生活でのパソコンの買い方提案)
パソコン売り場でも、新しい切り口で商品を紹介する展示がありました。それは、CPUの長所と短所を分かりやすく紹介したものです。
パソコンのCPUには主に3つのメーカー製品(Intel、AMD、Qualcomm)がありますが、これまではパソコンの主な利用シーンがメールやインターネット閲覧、オフィスソフトを使った書類作成などに限られていたため、CPUの違いを意識した商品紹介はほとんど行われていませんでした。しかし現在では、画像加工、映像編集、イラスト作成といったクリエイティブな作業や、高度化したネットゲーム、SNSや通信アプリを活用したコミュニケーションなど、パソコンの利用シーンも多様化しています。そのため、「どのPCを選べば自分の用途に合うのか」を迷う人が増えているのが現状です。
このような環境の変化に対応していたのが、写真⑤にあるパソコン売り場です。この売り場では、各メーカーのCPUがどのような作業を得意としているかを販売員が分かりやすく整理して提示しており、買い物客がスムーズに商品を選べる工夫がされています。私もこの展示を見て、初めて「CPUごとに得意分野がある」ということを知りました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書店での、書籍の新しいジャンル分け
(写真⑥:書店の独自の切り口で書籍を紹介)
書籍や映像、音楽といったコンテンツ商品は、中身を見たり読んだりしないと、その価値が分からないものです。
自分の求めていた商品であったかどうかが分かるのは、購入後になってからということも多いでしょう。音楽レコードを購入していた時代には、ジャケットのデザインを見て楽曲を想像しながら買う「ジャケ買い」という方法もありました。
こうした中で、ある書店は書籍を内容ごとにジャンル分けする「レーベル」を企画しました。従来の分類とは異なり、「心にグッとくる!グッとBook!」「ロング・ロング・ロングセラー」「知の旅へ」といった独自の切り口で本をまとめることで、買い物客が自分の趣味嗜好に合った作品を探しやすい売り場を作り上げたのです。
特に、どの本を購入するべきか悩んでいる買い物客にとっては、気になるレーベルから本を選ぶことで、知らなかった作家や新しい作品との出会いが生まれる可能性もあります。商品そのものは変わりませんが、紹介方法を工夫するだけで、買い物の楽しさが一新された好例と言えるでしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日用品・雑貨売り場での売り場の編集
(写真⑦:買い物客の視点に立ったユニークなコーナーづくり)
日用品や雑貨の売り方において、面白いコーナー作りをしている店舗があります。
通常、このような商品の売り場は、「家庭用品」「台所用品」「収納用品」「ペット用品」など、商品カテゴリーごとに分けて作られることが多いですが、写真⑦の店舗では「#壁を作ればDIYし放題」「#浮かせれば清潔」「#フックが増えれば収納は増える」「#そもそも汚さない」など、商品のベネフィット(利点)に焦点を当ててコーナーを作っています。
有名なマーケティングの格言に「顧客が欲しいのはドリルではなく、穴をあけること」があります。これは、ドリルを買いに来た顧客の本当のニーズは、穴をあけることにあるという意味です。この売り場では、まさに買い物客のニーズを切り口にして、満足のいく買い物ができるような売り場作りをしています。こうした切り口のアイデアも、常に買い物客と接点を持っている店舗ならではの発想かと思います。
商品カテゴリー別に売り場を作ることは、管理面では効率的ですが、買い物客の視点に立って、ベネフィットを分かりやすく訴求する売り場作りも、満足度の高い買い物体験を提供できる方法と言えるでしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
販売員のおすすめ商品を詰め合わせる
(写真⑧:予めおすすめ商品が詰め込まれているカートで買い物をスタートする)
最後に、売り場づくりとは異なるアプローチで、お店のキュレーション力が発揮されている施策を紹介します。
それは、売り場の入口へ予めお買い得商品を詰め合わせたカートを用意し、そこから買い物をスタートしてもらうという企画です。買い物客にとっては、お得な商品をセレクトしてもらっているので、各商品を探す手間が省けます。店舗にとっても、まとめ買いを促進でき、一人当たりの購入点数の増加が期待できます。何よりも、すでに入口でカートに商品が詰め込まれているという意外性が、買い物を盛り上げてくれています。
この企画が成功するかどうかは、予め詰め込まれた商品のセレクトにかかっています。いかに買い物客が求めている商品をカートへ詰め込み、魅力的に見せられるか。これも、普段から買い物客と接している販売員だからこそ分かるノウハウかと感じました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。これらの事例のように、お店や販売員の独自の売り場づくりの事例は他にも多くあります。
買い物をしやすい情報整理は、業態や売り場、商品によって様々ですが、それぞれの買い物客のニーズに合わせた売り方を考える点は共通です。そんなニーズを、最も買い物客の近くで感じているのが販売員です。販売員がキュレーションした売り場からは、きっと普段では気づかない売り方のヒントがいくつも見つかるはずです。店頭視察や、普段の買い物に行った際に、こうした販売員の売り場づくりの工夫を書き留めておくと、きっと店頭プロモーションの企画立案時に役立つアイデア集になることと思います。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
文:POP研究家 向坂文宏(桜美林大学准教授)